台湾三軍総合病院小児科教授 王志堅(台湾)
赤ちゃんが生後6か月を迎え、好奇心旺盛になり始める頃、大切な成長のステージである離乳期に突入します。この時期は、単なる食習慣の変化ではなく、赤ちゃんが自己を発展させ、自主性を育む重要な瞬間でもあります。母乳や粉ミルクから固形食への移行は、赤ちゃんの口腔発達や咀嚼能力、味覚の探索に大きな影響を与えます。
従来の離乳方法は主に親が赤ちゃんに食べ物を与えるものでしたが、Baby Led Weaning(BLW)、いわゆる「赤ちゃん主導の離乳法」は、赤ちゃん自身が進んで食べる新しい形態の離乳方法です。この方法は、2001年にイギリスのギル・ラプリー博士によって提唱され、欧米やアジア太平洋地域で広く受け入れられています。この方法では、赤ちゃん自身が離乳の主導権を握り、「赤ちゃんに選ばせる」という理念が強調されています。このアプローチは、赤ちゃんが食事の中でコントロール感を得られるだけでなく、自信や独立心を育む手助けとなります。
1. BLWと従来の離乳法の違い
従来の離乳方法
- 過程:ケアを行う大人がピューレ状や液体状の離乳食を準備し、スプーンで赤ちゃんに与えます。赤ちゃんの成長に伴い、離乳食の食感はピューレから粒状、さらに固形食へと進化します。
- メリット:赤ちゃんの食事量を正確に把握でき、必要な栄養を確保しやすいです。
- 課題:赤ちゃんが親の手助けに頼りすぎる傾向があり、自主的に食べ物を選ぶ機会が限られます。
BLW(赤ちゃん主導の離乳)
- 過程:親が適切な固形食を準備し、赤ちゃんが手で食べ物をつかんで食べます。食材はスティック状やブロック状のものから始め、赤ちゃんの咀嚼能力の向上に応じて多様性を増やします。
- メリット:赤ちゃんが自主的に食べ物を選ぶことで、感覚の発達や手と目の協調性を高め、自信や独立心を養うことができます。
- 課題:初期段階では食べる量が不十分になる可能性があり、また赤ちゃんの周囲の食事環境が散らかりやすいです。
2. BLWを実施する際の条件と注意点
赤ちゃんの準備
BLWは、生後6か月以降から始めることを推奨されています。この時期の赤ちゃんは身体や行動の発達が新しい食べ物に挑戦する準備が整うタイミングです。以下の基準を満たしているか確認してください:- 身体の発達:しっかりと座れる、首が座っている。
- 行動の兆候:手で物をつかめる、食べ物に興味を示す、咀嚼の動きを模倣し始める。
- 健康状態:成長が順調で、特別な健康問題がない。
親の準備
- 食材の選択:初期は、柔らかくて手でつかみやすい食材(例:柔らかく茹でたニンジン、バナナ、サツマイモのスティック)を選びましょう。硬い、粘り気のある、小さな食材(例:ナッツやパン)は避けてください。
- 食事環境:安定したベビーチェアに赤ちゃんを座らせ、床に防水シートを敷くと掃除が楽になります。
- 安全な見守り:赤ちゃんが食べる間は、必ずそばで見守り、むせたり喉を詰まらせる可能性に備えましょう。
食事記録
「ベビーダイアリー&育児記録アプリ」を活用し、赤ちゃんの食事内容を記録しましょう。写真を撮影することで、赤ちゃんがどのような食べ物を好むのか、どれくらい食べたのかを簡単に把握できます。
3. BLWのメリットとデメリット
メリット
- 感覚と協調性の発達:赤ちゃんがさまざまな食感や色、味を体験することで、感覚が刺激され、手と目の協調性が向上します。
- 自信と独立心の育成:食事の選択を赤ちゃん自身に任せることで、自信と自主性が育ちます。
- 親子の絆を深める:家族全員で食卓を囲むことで、食事のストレスを軽減し、親子の絆が深まります。
- 偏食リスクの低減:多様な食べ物に早い段階から慣れることで、偏食のリスクが低くなります。
- 言語発達の促進:咀嚼動作の頻度が増えることで、口の筋肉が発達し、言語能力の向上につながります。
- 記録の便利さ:「ベビーダイアリー&育児記録アプリ」で食事の記録を管理することで、医師や栄養士に相談する際に役立つ情報が得られます。
デメリット
- 散らかりやすい:初期は食べ物がこぼれやすいですが、これは学びの過程として重要です。
- 食事量の不足:最初は食べる量が少ないため、母乳やミルクを補う必要があります。
- 家族の不安:家族や祖父母がBLWに不安を感じることもあります。その際は、十分な説明が必要です。
- 救急スキルの習得:万が一のために、親は応急処置の知識を身につけておきましょう。
4. BLWの安全性の確保
むせると窒息の違い
- むせる:赤ちゃんが咳をする、顔が赤くなる、涙が出るなどの反応がありますが、多くの場合、自力で異物を取り除くことができます。
- 窒息:赤ちゃんが無音で、呼吸できず、顔色が青紫色になる場合。直ちに赤ちゃん用のハイムリック法を実施してください。「ハイムリック法」は、のどに食べ物や小さいものが詰まって息ができないときに、それらを出すための方法です。赤ちゃんの場合は、背中を優しくたたく方法や、胸を押す方法が使われます。
窒息防止のための注意点
- 小さくて硬い食材(例:ナッツ、ブドウ)や粘り気のある食材(例:ピーナッツバター)は避けてください。
- 食材は赤ちゃんが握りやすい大きさ(スティック状やブロック状)に切りましょう。
5. BLWはあなたの家庭に適していますか?
家庭ごとに育児スタイルは異なります。BLWは、赤ちゃんにとって自然で楽しい食事体験を提供しますが、適しているかどうかは赤ちゃんのニーズや家庭の生活スタイルによります。親が愛情と忍耐を持って赤ちゃんの食事を見守ることで、食事は家族の温かい時間の一部になります。どの方法を選んでも、愛情と関心をもって接することで、赤ちゃんは健康で幸せに成長します。
王志堅(Chih-Chien Wang)医師のバックグラウンド情報:
現職
三軍総合病院小児科特任教授
国防医科大学医学部小児学科教授
学位
国防医科大学医学博士
専門領域
感染症、重症医学の専門家
経歴
国防医科大学医学博士
台湾小児科専門医
台湾感染症専門医
台湾小児救急専門医